【評価段階】
★★★★★──読まねばならない。
★★★★───読んだ方がよい。
★★★────参考程度に。
★★─────暇なら読めば?
★──────見なかった振りで通り過ぎよ。

【か】
加地大介
加地大介『なぜ私たちは過去へ行けないのか ほんとうの哲学入門』★★★(20090624)

哲学書房2003
 哲学するきっかけは身の回りにあふれています。鏡のような身近な道具のなかにも哲学する種はいっぱい詰まっていますし、娯楽映画を存分に楽しんだその延長上で哲学することができます。この本では、鏡像反転の謎やタイムトラベル映画の謎について考えながら「右と左」「過去と未来」という私たちの基本概念を分析し、空間と時間にまつわるいくつかの哲学的問題に答えていくことを試みます。(「まえがき」)
 「時間」と「空間(特にいわゆる「鏡像問題」)」という二つのトピックに関しての哲学的考察。比較的読みやすく、哲学の(この種の問題の)入門者には最適。とはいえ、時間論においては問題にされているのはタイトル通り「なぜ過去へ行けないのか」であって、むしろ時間論ではポピュラーな「時間の実在問題」については触れられず、マクタガートの系列論も登場しない。また、鏡像反転の考察についてもここにある結論ではもう一つしっくりこない。従ってこれは確かに「入門」書であるし、それ以上のものではない。また、あちこちに挿入された、決して上手いとは(口が裂けても)言えないイラストと、これも合間に挿入される創作物語は取り除いた方がすっきりする。
国分拓
国分拓『ヤノマミ』★★★★★(20131121)

新潮文庫2013
150日間、僕たちは深い森の中で、ひたすら耳を澄ました――。広大なアマゾンで、今なお原初の暮らしを営むヤノマミ族。目が眩むほどの蝶が群れ、毒蛇が潜み、夜は漆黒の闇に包まれる森で、ともに暮らした著者が見たものは……。出産直後、母親たった一人に委ねられる赤子の生死、死後は虫になるという死生観。人知を超えた精神世界に肉迫した、大宅壮一ノンフィクション賞受賞作。
 今日の我々は、いわゆる未開社会を映像で見る機会を殆ど持っていない。いつの間にか、「○○部族の生活」がTVで紹介されることは絶えてしまった。予算の都合からか、それとも番組企画を立ち上げる者の無知か、あるいは視聴率至上主義の故か。もしかしたら公序良俗に関わるTV局側の過剰な自主規制が理由なのか。多分、そのすべてであるのだろう。そえゆえに映像作品としての「ヤノマミ」は貴重である。およそ我々からは最も異質な文化の有様を、ここに居ながらにして観られるのであるから。その「ヤノマミ」は、饒舌な説明を避け、専ら映像に「語らせる」故に素晴らしいのだが、一方でその生活について幾多の疑問が浮かび、しかもそれが解決されないという難点も持つ。本書はそんな疑問の殆どを明らかにしてくれる。人類学者のそれとは異なり、素朴ながら驚きに満ちた筆致が好ましい。個人的に文庫化が嬉しい作品。
小谷野敦
小谷野敦『日本文化論のインチキ』★(20100907)

幻冬舎新書2010
「日本語は曖昧で非論理的」「日本人は無宗教」「罪ではなく恥の文化」……わが民族の独自性を説いたいわゆる日本文化論本は、何年かに一度「名著」が出現し、時としてベストセラーとなる。著者はある時、それらの学問的にデタラメな構造を発見した。要は@比較対象が西洋だけ、A対象となる日本人は常にエリート、B歴史的変遷を一切無視している、のだ――。国内外の日本論に通じる著者が『武士道』に始まる一〇〇冊余を一挙紹介、かつ真偽を一刀両断。有名なウソの言説のネタ本はこれだ!
 心意気だけが評価できる本。タイトルに惹かれて買うと著者の思考力の無さに愕然とすることは間違いない。著書の批判が著者の人格批判と混在し(著者に批判の手紙を送ったが無視された、だからこいつは駄目な奴だ、という主張は典型的なクレーマーそのものである。こういう輩を常識人は普通無視する。)、基本的な理論その他の現状さえ身に付けていない状態で(チョムスキーが言語学において唯一科学的である、という主張を堂々と展開している時点で明らかに駄目であろう。また、ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』すらまともに読めていないらしい)、ただ単に悪口を書き散らかした内容。後味の悪さはこの上ない。著者が「日本論」及び「文化論」について理想とするところは、恐らく[紹介文]に挙げた三項を裏返したものになるはずだが、@全ての文化を比較対象とし、A全ての階層の日本人を対象とし、B歴史的変遷を全て考慮して、「日本論」を書いてからこのような本を出して欲しいと切に願う。つまりこんな本は書くな、ということだ。書いても売るな、ということである。そして……売っていても買うな。騙されたと思って買うと本当に騙されるから油断ならない。タイトルの「インチキ」が自己言及であるというパラドクス。

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