【K】

King Crimson

King CrimsonIn the Court of the Crimson King(1969)
Court
【クリムゾン・キングの宮殿】
01. 21st Century Schizoid Man (including Mirrors)/21世紀の精神異常者
02. I Talk to the Wind/風に語りて
03. Epitaph (including March for No Reason,Tomorrow and Tomorrow)/墓碑銘(理由なき行進・明日又明日)
04. Moonchild (including The Dream,The Illusion)
05. The Court of the Crimson King (including The Return of the Fire Witch,The Dance of the Puppets)/クリムゾン・キングの宮殿(帰って来た魔女・あやつり人形の踊り)
 言わずと知れた歴史的名盤。通称『宮殿』。ロック史上の名盤紹介において、これが選択されないことはまずないと言っていい。それゆえこれを聴かないままにロックの歴史を語ってはならないだろう。
 Crimsonを扱う各種のHPを覗いてみると、『宮殿』に打ちのめされた人は多く、しかも不思議とその年齢は中学生ぐらいであるようだが、あるいはその年代あたりから本当の意味で“音楽”というものの力を理解するようになるのかも知れない。そして、成長してから聴き返してみて、このアルバムが一向に色褪せていないことに驚き、一方で10代前半ですでにこうした“音”を聴いていた自分に驚く、というのもまた共通する要素であるようだ。
 管楽器の積極的な多用と、メロトロンの叙情性がこのアルバムの音作りの特徴ではあるが、それに加えて、すでに独自の領域を築き上げていて、このような叩き方をするドラマーは他にはいないMichael Gilesをはじめとして、デビュー作にも関わらず個々のメンバーの超絶技巧が冴え渡る。1曲目の21st Century Schizoid Manは、不協和音ぎりぎりの構成と、中間部8分の6拍子の見事なユニゾンプレイで歴史に残る名曲。Epitaph及び表題曲The Court of the Crimson Kingでは、メロトロンがデカダンスな叙情性の彩りを添えるのに貢献している。また、意外と指摘されていないことだが、Robert Frippはこの初期Crimsonの2作品においてはエレクトリック・ギターよりもアコースティック・ギターを使う比重が高く、それもまたこのアルバムの特異性だと言えるだろう。

2009.08.23追記 現時点で21st Century Schizoid Manの邦題は“21世紀のスキッツォイド・マン”となっているが、何故「精神異常」を自主規制語とするのか理解不能である。そもそもschizoidの正確な訳語はかつては「精神分裂病」であり、今日それが「統合失調症」と訳し換えられているのだが、「分裂」=「統合の失調」ではないのだろうか? だとすればこうした語の置き換えによって、一体何が排除されたのであろうか? さっぱり意味不明であり、仮にその内幕が分かったとしても到底納得できないと思われる。それゆえここでは本来の邦題を敢えて挙げておく。

King CrimsonIn the Wake of Poseidon(1970)

【ポセンドンのめざめ】
01. Peace a Beginning/平和−序章
02. Pictures of a City (incluging 42nd Treadmill)/冷たい街の情景(踏み車の42番目)
03. Cadence and Cascade
04. In the Wake of Poseidon (including Libra's Theme)/ポセイドンのめざめ
05. Peace a Theme/平和−主題
06. Cat Food
07. The Devil's Triangle
      (i)Merdy Morn
      (ii)Hand of Sceiron
      (iii)Garden of Worm
08. Peace an End/平和−終章
 一般には『宮殿』の焼き直しであるとしてあまり評価は高くない作品。確かにコンセプトも曲順も曲調も前作を踏襲しているのだが、その分気負いがなく、抑制が効いている点ではこちらの方が上ではないか? たとえばPictures of a Cityの中間部分では、前作21st Century Schizoid Manにも勝るとも劣らない小刻みなアンサンブルがエレクトリックギターの多重録音によって展開される。タイトル曲In the Wake of Poseidonでは、1作目よりドタバタと力のこもったMichael GilesのドラムにRobert Frippのアコースティック・ギターが執拗に絡みつく。Cat FoodではKeith Tippetのピアノもこの後製作される"Lizard"を予感させるものがある。The Devil's Triangleは、ホルスト「火星」がベースとなった曲。このセカンドアルバム制作後、Greg Lake(B,Vo)EL&P結成のため脱退。ちなみに「ポセイドンのめざめ」が誤訳なのは有名な話。

King CrimsonLizard(1970)
01.Circus (including Entry of the Chameleons/カメレオンの参上)
02.Indoor Games
03.Happy Family
04.Lady of the Dancing Water/水の精
05.Lizard
  (a)Prince Rupert Awakes
   /ルーパート王子のめざめ
  (b)Bolero-The Peacock's Tale
   /ピーコック物語のボレロ
  (c)The Battle of Glass Tears
   /戦場のガラスの涙
     including (i)Dawn Song
           /夜明けの歌
          (ii)Last Skirmish/最後の戦い
          (iii)Prince Rupert's Lament
           /ルーパート王子の嘆き
  (d)Big Top
 哲学から魔術へ──このアルバムの印象を一言で語るならそのようになる。前二作を構成する要素としての宮廷、哲学者、道化師などは、このアルバムにおいて魔術的な色合いの元に再配置される。Circusの唸るような重低音ベース、その上で飛び跳ねるアコースティック・ギター、多重録音により厚みを持ったメロトロン、それに比してやや後方にオフセットされたボーカルによって、混沌が新たな様子を伴って姿を現す。前二作で嘆かれた「混沌」とうテーマは、本作では邪な笑いにおいて肯定される。中でもYesJon Andersonをゲストに迎えた「ルーパート王子のめざめ(後に多用されるギターメロディのテープ逆回転が初めて用いられるのもこの曲だ)」に始まり、23分を越える組曲が展開されるLizardは、急流になるかと思えば淀み、たゆたうかと思えば流れ落ちるというように、緩急のついた名作であると思うし、それにケルト調のジャケット絵が見事にマッチしている。「ルーパート王子の嘆き」で聴けるロングトーン・ギターにも注目。
 ところが一般にこのアルバムの評価はそれほど高くない。Robert Frippが「何度も聴き続ければ24回目には打ちのめされる様に創ってある」とコメントしたらしく、それについて鼻で笑う意見が大半でありもする。しかし大音量でCircusを聴くならば、その瞬間に打ちのめされることは確実である。

King CrimsonIsland(1971)
01. Formentera Lady
02 Sailor's Tale/船乗りの話
03 The Letters
04 Ladies of the Road
05 Prelude: Song of the Gulls/カモメの歌
06 Islands

 Crimson第4作は、アルバムジャケットに採用された射手座・三裂星雲が象徴する如く、静と動の対比が極端に激しいアルバムとなっている。これ以前のCrimsonにも叙情性と攻撃性は確かに存在したが、しかしそのどちらもがある種理性的にコントロールされた、哲学的な色合いの濃いものだったと言える。ところがこの作品においてはそれが感情の方へ大幅に傾斜しているのである。それはこれまで一貫してCrimsonに詩を提供してきたPete Sinfieldの比重がこのアルバムにおいて頂点を極めていたからだろう。だからこそ、この作品には〈愛〉が溢れている。ただそこはCrimsonである。単純な〈愛〉の形は一つもない。Formentera Ladyでは地中海の海辺で微睡むような気怠さを持つ曲であり、日常から逃避して幻想の世界に寄せる気持ちを歌ったもの。Ladies of the Roadは、当時のドラッグ・カルチャーを揶揄した、性的なニュアンスの濃い作品。本格的なストリングスを導入したPrelude: Song of the GullsからIslandsに至り、ナルシシズムの孤独を、傷つきやすくもつながりを求めて止まない衝動を、「島(Island)」のメタファーにおいて語る、長い長い物語の終わりを飾るかのような静かで物悲しい曲。Robert Frippの使用楽器にクレジットされているHarmoniumは足踏みオルガンだが、これがコーダ部分に対して効果的に叙情性を与えている。そして、中でもThe Lettersは、Pete Sinfieldの詩の中では最高傑作だろう。裏切り・悪意・驚き・悲しみ・錯乱・そして静かな狂気と諦念が十六行に詰め込まれた傑作。ここにあるのは倒錯したすべての〈愛〉の形である。

King CrimsonEarthbound(1972)
01.21st Century Shizoid Man
02.Peoria
03.The Sailors Tale
04.Earthbound
05.Groon
 King Crimson初のライブ・アルバム。にも関わらず廉価版レーベルから、英国盤のみ発売されたというところに、制作者側の情熱の欠如が窺える。ジャケットもシンプルそのもの。それもそのはず、音源がカセットテープによるモノラル録音であるために、音の質に大きな難があるからだ。メンバーは“Island”時のもので、Robert Fripp以外の人物の傾向からPeoriaEarthboundなどの即興曲がジャズ方面へ大きく傾いている点でも異色のアルバム。Groonの後半はドラム・ソロをシンセサイザー加工したもので、初めて聞くと新鮮だが、やがてすぐに飽きる。

King CrimsonLarks' Tongues in Aspic(1973)
【太陽と戦慄】
01.Larks' Tongues in Aspic PartI/太陽と戦慄パート1
02.Book of Saturday/土曜日の本
03.Exiles/放浪者
04.Easy Money
05.The Talking Drum
06.Larks' Tongues in Aspic PartII/太陽と戦慄パート2
 ジャケット絵も絶品の名盤。そして【太陽と戦慄】という邦題も見事。また、以降のCrimsonの姿を決定づけた作品でもある。Robert Fripp以外のメンバー総入れ替えでスタートした新生Crimsonの1stアルバムにして通算5枚目のスタジオアルバム。新規メンバーはJohn Wetton(Vo,B)Yesを脱退して加入したBill Bruford(Dr)、及びDavid Cross(Key,Vio)Jamie Muir(Per)。それまでの管楽器に変わってバイオリンが導入され、返って荒々しさが増した作品。どことなく中東風のパーカッションから始まり、メロディとリズムが複雑に編み上げられていくLarks' Tongues in Aspic PratI、そしてそのコーダ部分を積分した形式のPratIIが白眉。後者はライブの定番曲ともなった。このシリーズは2003年までの30年間においてパート5まで作成された、いわばCrimsonの歴史でもある。なお蛇足だがPart IIは、映画『エマニエル夫人』に無断で使用された過去もある。それはそれとして、「土曜日の本」という意味不明な誤訳は問題。

King CrimsonStarless and Bible Black(1974)
【暗黒の世界】
01.The Great Deceiver/偉大なる詐欺師
02.Lament/人々の嘆き
03.We'll Let You Know/隠し事
04.The Night Watch/夜を支配する人
05.Trio
06.The Mincer/詭弁家
07.Starless and Bible Black/暗黒の世界
08.Fracture/突破口
 驚異のパーカッショニスト、Jamie Muirが脱退、その穴を埋めるべくBill Brufordのパフォーマンスが凄まじく変化した七枚目のアルバムは、一、二曲目、及び四曲目のボーカル部分を除いてすべてライブ録音である。にも関わらず計算されているかのようなテンションの高さ、そして言われなければスタジオ録音と勘違いしてしまいそうなテクニックに圧倒される。曲調としては、前作に見られたシニカルさは影を潜め、代わって瞑想的な雰囲気が全体を覆い、加えて、かつてのそれ("In the Court of the Crimson King""Islands")とはまた別種の叙情性が表現されている。激しくもありつつ、メロディアスでもあり、そうした相反する要素がぶつかり合って一種「無風」状態が生起する、そんな感じのアルバムであり、そうしたイメージを一言で表すならば文字通り「黒」であり、そして「夜」であるだろう。例えばThe Night Watchはレンブラントの「夜警」という絵にインスパイアされたものだし、そしてStarless and Bible BlackDylan Thomasの詩の引用である。そのような映像や言葉に表象されつつ、多様な夜のあり方が示されるわけである。アルバム中の白眉はThe Night Watchにおける静かな叙情性。しかし何と言っても出色の名曲はラスト2曲だろう。Starless and Bible Blackでは、ベースのリフにリードされ、砂漠を抜ける風のように静かに進んできた曲調が4分35秒前後でドラムがテンポを刻み始めると一転してうねり始める様に圧倒され、そして超絶技巧の嵐吹き荒れるFractureへと続く。この曲では、進んでは退き、また進んでは後ずさりするかのように多様なテーマが少しずつ提示され、夜の風景がモザイク風に描き上げられていく。4分8秒前後からようやく主旋律が登場するも、即座に副旋律へと移し替えられ、聴く側の緊張感は否応にも高まらざるを得ない。5分半から主旋律が前面に出てくると、すかさず曲調が壊される。最終的に曲が炸裂する7分41秒に至って、たまった欲求不満はようやく解放される。Codaの手法はLarks' Tongues in Aspic PartIIを踏襲しつつ、さらにアップテンポなものとなっている。《戦慄》Crimson最大の名曲。なお、この曲は20年の時を経てFraKcturedとして甦る。

King CrimsonRed(1974)
01.Red
02.Fallen Angel/堕落天使
03.One More Red Nightmare/再び赤い悪夢
04.Providence/神の導き
05.Starless/暗黒
 ギターサウンドの多重録音が重い唸りを上げるインストゥルメンタル、Redに続いて、ハーモニクス奏法を多用するアコースティック・ギターに重ねて哀愁漂うメロディで“天使の死”が歌われるバラード、Fallen Angel。この曲では、John Wettonのボーカルはこれ以上はないというほどの叙情に満ち溢れ、3分41秒以後の展開に戦慄を感じずにはいられない。そして不協和音と不気味なハンドクラップに彩られたOne More Red Nightmare、前衛音楽めいたイントロが4分40秒当たりから絶妙なアンサンブルへと移行していくProvidenceを経て、Starlessへ。星雲の朧気な光のようなメロトロンに始まり、イギリスの夭逝詩人、Dylan Thomasの詩集『ミルクの森で』の一節を織り込んだ歌詞が半ばなげやりに歌われ、暗黒迷宮の扉がゆっくりと開かれてゆく。

Sundown dazzling day
Go through my eyes
But my eyes turned within
Only see
Starless and bible black

 そして4分20秒以降の後半部は、ギターのリフと重いベースによって徐々に緊張感が高められ、9分前後で臨界点を超えて疾走感に溢れるパートが始まる。そして、11分13秒前後からMel Collinsのサックスによって再びメインテーマが奏でられると、アルバムは終局へと雪崩れ込む。この曲が終わると同時にProgressive Rockの歴史にも終止符が打たれ、King Crimsonもまた、7年間の眠りに入ることになる。

King CrimsonUSA(1975)
01.Walk on...No Pussyfooting
02.Larks' Tongues in Aspic partII
03.Lament/人々の嘆き
04.Exiles/放浪者
05.Asbury Park
06.Easy Money
07.21st Century Schizoid Man
08.Fracture/突破口
09.Starless/スターレス
 1974年、アメリカにおける壮絶なライブを収録した怪作。2002年発売の30th Annversary Editionでは、1974年LP発売当初の曲目と比較して、[02]から[01]が独立、[08][09]が追加収録された形となっている。74年のこのツアーは他の3人のテンションに付いていけず、疲労の極みに達したDavid Cross(Key,Vio)が脱退を決意したという曰く付きのものだけに、圧倒的な訴求力が感じられる。特にAsbury Parkは、果たしてこれが当日その会場限りのインプロなのかと思うほどにまとまりのある、それでいて力強い作品。Frippのギターがこれでもかというほどに炸裂し、それに負けないベースとドラムの凄まじさがギターのテンションをさらに加速する。これではCrossが去るのも無理はない。実際この曲では、彼の担当するメロトロンは一歩引いたところに位置したきりである。新収録のFractureは、序盤のギターにやや不安定なところはあるものの、次第に持ち直し、【暗黒の世界】ヴァージョンに劣らない演奏を見せる。これも新収録のStarlessだが、この3人のテンションでこの曲が演奏されると、他の曲に劣らないハードさを持ってしまうという事実に、ただただ驚くばかりである。

King CrimsonDiscipline(1981)
01 Elephant Talk
02 Frame by Frame
03 Matte Kudasai
04 Indiscipline
05 Thela Hun Ginjeet
06 The Sheltering Sky
07 Discipline
 7年間の沈黙を破って再結成された新生King Crimson第1作。以前の雰囲気が微塵も感じられない「新しい音」に対して、当時は悲憤慷慨する人々が続出、しかし逆に現在においては再評価の動きが著しい問題作。ギタリストの鑑のような高等テクニックを椅子に座って繰り出し続けるRobert Frippが、ギタリストの風上にも置けないようなイレギュラーなギターの使い方をするAdrean Belewを迎え、ギター弦とベース弦の両方を備え、指で叩くことにより音を奏でる特殊な楽器、Stickを操る数少ないベーシスト、Tony Levinと、『戦慄』以来のドラマーBill Brufordを擁した新生Crimsonにおいては、Epitaphに歌われた“カオス”の影は非常に薄く、また“Red”まで曲の重要な要素だった歌詞もElephant Talkにおいて「象の戯言だ」と小気味良いくらいに全面否定されてしまった。その代わりに打ち出されるのはタイトル通り「規律」に厳密に則った「訓練」の成果である。ポリリズムが二つのギターによって微妙なうねりを持ちながら重ね合わされるさまが、実は以降のKing Crimsonの幕開けを予示するものであったわけだ。ギターシンセサイザー、エレクトリック・ドラムなど、先端テクノロジーを積極的に登用し始めるのもこの時期からであるし、そうしたテクノロジーを使いこなせているバンドも他にない。

King CrimsonBeat(1982)
01 Neal and Jack and Me
02 Heartbeat
03 Sartori in Tangier
04 Waiting Man
05 Neurotica
06 Two Hands
07 The Howler
08 Requiem
 前作"Discipline"の延長上に位置するアルバムは、前作以上に金属的な音作りがなされた、「硬い」作品である。とはいえ、前作以上に革新的な作品は少なく、その意味では結構地味なアルバムでもある。しかし、Sartori in Tangierで聴けるRobert Fripp久々の魂のこもったギター・ソロ(ライブではBill Brufordに加えてAdrean Belewもドラムに回り、ツイン・ドラム体制となる上に、メイン・リフとベース部分をTony Levinが担当し、その上にFrippのソロが重ねられていく、という演奏がなされた)や、'82年版Schizoid Manとも言えるNeurotica('81年来日公演当時はManhattanというタイトルであった)など、むしろライブでその真価を発揮する作品が多いと言えるのかもしれない。

King CrimsonThree of a Perfect Pair(1984)
01 Three of a Perfect Pair
02 Model Man
03 Sleepless
04 Man with an Open Heart
05 Nuages(That which Passes,Passes like Clouds)
06 Industry
07 Dig Me
08 No Warning
09 Larks' Tongues in Aspic Part III/太陽と戦慄パートIII
 赤、青とくればもう次はこれしかない、という予想通りの黄色ジャケットで発表されたDiscipline-Crimson第3作にして最終作品。一般的にこの作品はDiscipline-Crimson中最も評価が低い。とはいえ、3作中においては音の流れにどこかしら“諦め”めいたムードが漂う異色作であるとも言える。それは特にMatte Kudasaiを越える(と思う)バラード、Model Manや、The Sheltering Skyの延長線上にあるNuages、インダストリアル・ノイズを効果的に多用したIndustryに顕著であるだろう。そしてアルバムの掉尾を飾るのは往年の名作、太陽と戦慄の80年代解釈版パート3。2よりもテンポアップされた前半部はまさに「戦慄」もの。ただ、これがフリーフォームへと移る後半をどのように評価するかは意見の分かれるところだろう。個人的には、もう一度前半部が繰り返されることで構成を引き締めて欲しかったと思う。

King CrimsonVROOOM(1994)
01 VROOOM
02 Sex Sleep Eat Drink Dream
03 Cage
04 Thrak
05 When I Say Stop,Continue
06 One Time
 84年の"Three of a Perfect Pair"発表後解散したCrimsonが10年を経て再結成された時には、歌詞どころかアルバムタイトルまで否定され、単なる擬音と化してしまっていた。さて、この90年代クリムゾンの構成は、80年代のCrimsonに二人を加えてのギター×2(Robert Fripp&Adrian Belew) 、ベース×2(Tony Levin&Trey Gunn)、ドラム×2(Bill Bruford&Pat Mastelotto)という“ダブル・トリオ”であり、これはその予告編的なミニ・アルバムである。基本コンセプトは"Discipline"を継承・応用したもので、ギター2本の微妙なズレがトリオ編制にまで拡大したことにあるだろう。右左チャンネルのトリオ構成が同じ曲を、それぞれ異なるリズムとアクセントで演奏することによる音の「うねり」が最大の持ち味。

King CrimsonTHRAK(1995)
01 VROOOM
02 Coda:Marine 475
03 Dinosaur
04 Walking on the Air
05 B'Boom
06 THRAK
07 Inner Garden I
08 People
09 Radio I
10 One Time
11 Radio II 12 Inner Garden II
13 Sex Sleep Eat Drink Dream
14 VROOOM VROOOM
15 VROOOM VROOOM Coda
 ミニアルバム"VROOOM"と4曲重複しているが、それも含めて全ての曲が新録音によるフルアルバム。日本版の初盤は前作ほどにはチャンネルセパレーションがはっきりせず、各パートがどのような演奏をしているのか、ギターを除いて今一つ明確ではなかったが、ペーパージャケット盤ではそれが解消されている。ただ、セパレーションがはっきりした分、音の重厚さに欠けたのかもしれない。また、ダブル・トリオに拘るあまりに曲自体の起伏や複雑さ、展開の派手さに乏しいとも思える。ともかくもこれはダブル・トリオ編成によるCrimson唯一のスタジオフルアルバムであり、以後20世紀最後の年までCrimsonは再度の永い眠りに就く。

King CrimsonThe Nightwatch(1997)


Live at the Amsterdam Concertgebouw November 23rd 1973
[CD 1]
01.Easy Money
02.Lament
03.Book of Saturday
04.Fracture
05.The Night Watch
06.Improv : Starless and Bible Black

[CD 2]
01.Improv : Trio
02.Exiles
03.Improv : The Fright Watch
04.The Talking Drum
05.Larks' Tongues in Aspic (PartII)
06.21st Century Schizoid Man
 1973年、解散寸前の時期における2枚組ライブアルバム。そしてこの時期のライブとしては“USA”に並ぶ凄絶な演奏が聴けるのだが、25年に渡って公式盤は存在せず、それゆえに多数のアナログ海賊版が出回っていた曰く付きのアルバム。そのアナログ海賊版の典型としては“Un Rêve sans Cnséquence Spéciale”――訳すならば「特別な結末のない夢」――という、シンプルながら内容を反映した名ジャケットを持つものが有名である。ともかく楽器間のバランスが良く、どの曲を取ってみても奇蹟に近い出来である。

King CrimsonThe ConstruKction of Light(2000)
01 ProzaKc Blues
02-03 The ConstruKction of Light
04 Into the Flying Pan
05 FraKctured
06 The World's My Oyster Soup Kitchen Floor Wax Museum
07-09 Larks' Tongues in Aspic PartIV/太陽と戦慄パートW
10 Coda:I Have a Dream

ProjeKct X
11 Heaven and Earth
 “The ConstruKction of Light”というアルバムタイトルは“Starless and Bible Black”への対立的な意味を暗示させる。「光の構築」と「暗黒の世界」。5年振りに発表されたスタジオ・アルバムは、Tony LevinBill Brufordを除いた4人編成によるものとなった。人数は減ったが、より逆に重い音に仕上げられていて、これが後のnuovo metal路線へ展開されていくこととなる。Disciplineのコンセプトはここに至ってさらに複雑さを増し、そうした手法の蓄積が過去の楽曲を2000年に相応しい音に仕上げている。たとえば『暗黒の世界』に収録されたFractureの再解釈としてのFractured、そしてアルバムの最後を飾るLarks' Tongues in Aspic PartIV-Coda:I Have a Dreamもまた、『戦慄』のミレニアム再解釈版にあたる。そしてこのパートWは、シリーズ中の最高傑作にしてCrimson最大の名曲であるだろう。ただ残念なのは、9.11以後のライブでは、Coda部分の歌詞がおそらくは不穏当だという理由において省略されてしまっている点だろう。因みに曲名の"c"の前に大文字の"K"が付けられているのは“Kc”=King Crimsonを意味する。
 なお、FraKcturedCoda:I Have a Dreamは、法月綸太郎『生首に聞いてみろ』の章題に使われている。

King CrimsonHeavy ConstruKction(2000)
[CD One]
01.Into the Frying Pan
02.The ConstruKction of Light
03.ProzaKc Blues
04.Improv:Munchen
05.One Time
06.Dinosaur
07.VROOOM
08.FraKctured
09.The World's My Oyster Soup Kichen Floor Wax Museum
10.Improv:Bonn

[CD Tow]
01.Sex,Sleep,Eat,Drink,Dream
02.Improv:Offenbach
03.Cage
04.Lark's Tongues in Aspic:Part Four / Coda:I Have a Dream
05.Three of a Perfect Pair
06.The Deception of the Thrush
07.Heroes
- Enhanced CD contains live concert video -

[CD Three]
01.Sapir
02.Blastic Rhino
03.Light Please(part 1)
04.cccSeizurecc
05.Off and Back
06.More(and loss)
07.Beautiful Rainbow
08.7 Teas
09.Tomorrow Never Knew Thela(including Tomorrow Never Knows)
10.Uböö
11.The Deception of the Thrush
12.Arena of Terror
13.Light Please(part 2)
 ディスク1&2の即興曲のタイトルからも窺い知れる通り、2000年のヨーロッパ・ツアーのライブアルバム。ディスク3は「プロジェクト」名義のライブ。「太陽と戦慄パート4」のCodaが原曲通り歌詞入りであることは、9.11以後それが封印されたために非常に貴重であると言える。さらに驚くことにHeroesという、他人の曲を(と言ってもプロデュースも原曲中のギターもRobert Frippであるのだが)演奏しているのもこのアルバムの中心的な価値であるだろう。加えてサイズは小さいながらもライブ映像入り。

King CrimsonLevel Five(2001)
01.Dangerous Curves
02.Level Five
03.Virtuous Circle
04.The ConstruKction of Light
05.The Deception of the Thrush
 ライブ音源とスタジオ音源からなるミニアルバム。ミレニアム・クリムゾンと、後の2003年クリムゾンとの架橋的なアルバムだと言えるだろう。Dangerous Curvesでのパーカッションの絢爛豪華さ、実質上Larks' Tongues in Aspic PartVと呼び得るLevel Fiveの重量感、ともにドラマーのPat Mastelottoの存在感が際立つ。一方でこれもライブの定番となるThe Deception of the Thrushの初期バージョンも収められている。とは言え、やはりミニアルバムでは物足りない。

King CrimsonHappy with what You have to be Happy with(2002)


【shoganai】
01.Bude
02.Happy with what You have to be Happy with
03.Mie Gakure
04.She Shudders
05.Eyes Wide open
06.Shoganai
07.I Ran
08.Potato Pie
09.Larks' Tongues in Aspic(Part IV)
10.Clouds
 英語と日本語の2種類のタイトルを持ち、さらに日本版のみの特別なジャケットも用意された異色なミニ・アルバム。“Discipline”におけるMatte Kudasai“Beat”におけるSartori in Tangierに次いで、曲名にも日本語が用いられているのは日本への特別なファン・サービスか。静かな雰囲気を持つブリッジ的な曲を挟んで小曲が並ぶ構成は後の“The Power to Believe”に継承される形式である。しかし何と言っても白眉であるのはライブ録音されたLarks' Tongues in Aspicの凄まじい進化の度合だろう。現在同曲のライブは複数発表されているが、この演奏を超えるものはまだ出ていない。

King CrimsonThe Power to Believe(2003)
01 The Power to Believe T:A Cappella
02 Level Five
03 Eyes Wide Open
04 Elektrik
05 Facts of Life:Intro
06 Facts of Life
07 The Power to Believe U
08 Dangerous Curves
09 Happy with What You Have to be Happy with
10 The Power to Believe V
11 The Power to Believe W:Coda
 The Power to Believeという小曲を間に挟みつつ展開する超重厚曲群。すでにライヴにおいて演奏されていたLevel FiveDangerous Curvesは、スタジオ・テイクでの進化の度合いが凄まじい。特にドラムスの複雑さが群を抜く。Robert Frippが引退宣言をしてしまったため、これがKing Crimsonの歴史における最後のスタジオ・アルバムである。そのアルバムのタイトルがPower to Believeなのも何とも暗示的である。


Kraftwerk

KraftwerkRadio - Activity(1975)
【放射能】
01.Geiger Counter
02.Radioactivity
03.Radioland
04.Airwaves
05.Intermission
06.News
07.The Voice of Energy
08.Antenna
09.Radio Stars
10.Uranium
11.Transistor
12.Ohm Sweet Ohm
遙か1975年に作成されたアルバム。単純なリズムと、これも単純なメロディの執拗な繰り返し、それに時折思い出したように歌詞を乗せる、という独特な手法は、次作で大きく開花することになる。アルバム全編を通して聴くと確実に眠くなるのだが、一方でその単純なリズムが耳に残る奇妙な作品。考えてみればMike Oldfieldの手口に酷似している、と言えるのだが、出来上がった作品の印象がかくも異なるのは何故なのか。

KraftwerkTrans-Europe Express(1977)
【ヨーロッパ特急】
01 Europe Endless
02 The Hall of Mirrors/鏡のホール
03 Showroom Dummies
04 Trans=Europe Express/ヨーロッパ特急
05 Metal on Metal
06 Franz Schbert
07 Endless Endless
 今日のいわゆるテクノ・ポップの原点は、おそらくこのKraftwerkにある。徹底的に電子音のみで構成された楽曲は、一見淡々とただ時を刻むようでいて、実はしっかりと盛り上がりも形成する。その上に放り出されるのは、音程すら怪しく頼りないボーカルであるが、それがまた彼らの描く電子社会の〈人間─非人間〉的な世界をうまく表現している。その世界のありさまは独特のライブ方式にも反映された。ステージにメンバーを象った人形を置いて、本人たちはステージ裏で演奏する、という伝説的なスタイルは、当然「口パク」以上に斬新だろう。また一方、電子音で蒸気機関車の走る姿を再現するというこのアルバムは、いわゆる「スチームパンク」にも通ずるものだとも言える。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送