【評価段階】
★★★★★──傑作。
★★★★───秀作。
★★★────凡作。
★★─────駄作。
★──────困作。

【S】
Robert J. Sawyer
ロバート・J・ソウヤー『ターミナル・エクスペリメント』★★★★(20140816)・Robert J. Sawyer"The Terminal Experiment,1995"

内田昌之訳・ハヤカワ文庫1997
医学博士のホブスンは、死にかけた老女の脳波の測定中に、人間の「魂」とおぼしき小さな電気フィールドが脳から抜け出てゆくのを発見した。魂の正体を探りたいホブスンは自分の脳をスキャンし、自らの精神の複製を三通り、コンピュータの中に作りだした。ところが現実に、この三つの複製のうちどれかの仕業としか思えない殺人が次々に……果たして犯人はどの「ホブスン」なのか? 1995年度ネヴィラ賞に輝く衝撃の話題作
 面白くないわけではない。読み始めたらおそらくは止められない。しかしながら、読み終えて考えてみると、物語が「分裂」しているような気がする。すなわち「魂波」の存在の発見とそれがもたらす社会の反応というエピソードと、複製による殺人事件というエピソードである。前者は後者の単なるきっかけとしてしか扱われず、物語は主として後者において駆動される。しかも「誰が殺人者なのか?」はいともあっけなく解決される。二つのエピソードをもう少し複雑に編み上げるか、または全く異なる二つの物語に分離した方がさらに面白くなったのではないかと思える。
ロバート・J・ソウヤー『フレームシフト』★★★★★(20101206)
Robert J. Sawyer"Flameshift,1997"

ハヤカワ文庫2000
ヒトゲノム・センターに勤務する気鋭の遺伝子学者ピエールは、帰宅途中、ネオナチの暴漢にあやうく殺されそうになった。ネオナチとなんのかかわりもないのに、どうして狙われたのか? やがて、自分が連続殺人事件にまきこまれていると知ったピエールは、事件の謎とみずからの研究課題であるヒトゲノムに隠されている秘密に命がけで挑んでいくが……ネビュラ賞作家ソウヤーが、遺伝子研究の問題をスリリングに描く、会心作
 発端から推理小説のような展開を見せる傑作。遺伝子研究、アウシュビッツでのユダヤ人虐殺、連続殺人事件、超能力という、一見まるで無関係な内容が次第にリンクしていく様に惹き込まれること必至。それはともかく、バドワイザーについての「アメリカ人がビールと呼ぶ、この牛の小便みたいなしろもの」という表現に、実は一番感動したかも知れない。
ロバート・J・ソウヤー『フラッシュフォワード』★★★(20101206)
Robert J. Sawyer"Flashforward,1999"

ハヤカワ文庫2001
全世界の人びとが自分の未来をかいま見たら、なにが起こるのか? 2009年、ヨーロッパ素粒子研究所の科学者ロイドとテオは、ヒッグス粒子を発見すべく大規模な実験をおこなった。ところが、実験は失敗におわり、そのうえ、数十億の人びとの意識が数分間だけ21年後の未来に飛んでしまった! 人びとは、自分が見た未来をもとに行動を起こすが、はたして未来は変更可能なのか……ソウヤーが時間テーマに大胆に挑戦する問題作
 ワンアイディアものの秀作。一見ハードSFのような印象ではあるが、実のところそのカテゴリーに入るかどうか微妙なところだろう。現象の理由は最後まで説明されないし、そこで論じられる時間論も良く言えばあっさりとしたものだが、悪く言えば大雑把である。描かれるのは科学的知見に基づく不思議な出来事ではなく、たった2分間ではあるが、21年後の未来を覗いてしまった人々の人間ドラマである。しかしそれも、特に意外な設定や思いがけぬ顛末がある訳でもなく、どちらかと言えばありきたりな地平に着陸してしまう。ソウヤーの作品としてはあまり良い出来とは言えないが、読ませる450ページ余りではある。
John Scalzi
ジョン・スコルジー『老人と宇宙』★★★★(20130317)
John Scalzi“Old Man's War,2005”

内田昌之訳・ハヤカワ文庫2007
 ジョン・ペリーは75歳の誕生日にいまは亡き妻の墓参りをしてから軍隊に入った。しかも、地球には二度と戻れないという条件で、75歳以上の男女の入隊しか認めないコロニー防衛軍に。銀河の各惑星に植民をはじめた人類を守るためにコロニー防衛軍は、姿形も考え方もまったく異質なエイリアンたちと熾烈な戦争を続けている。老人ばかりを入隊させる防衛軍でのジョンの波瀾万丈の冒険を描いた『宇宙の戦士』の21世紀版登場!
 たとえば、物語の冒頭で「ゴースト部隊」へ組み込まれたはずの人物のその後がまったく不明であるとか、その「ゴースト部隊」で出会ったある人物の由来がわからない(この点は、「入隊の意思登録」にその手がかりがあるのかもしれないが)とか、実は「老人」というのは正確な意味で不適切ではないのかとか、細かいところで伏線が生かされなかったり説明不足があったりして、隔靴掻痒の感はあるものの、物語自体は一気に読める。内田昌之の訳がこなれていて読みやすいこともあるが、展開が早く、テンポがよいことも一因だろう。『宇宙の戦士』というよりも、『レンズマン』であるとか『火星のプリンセス』シリーズなどを彷彿とさせる、上質のスペースオペラ。

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