【評価段階】
★★★★★──傑作。
★★★★───秀作。
★★★────凡作。
★★─────駄作。
★──────困作。

【R】
Ruth Rendell
ルース・レンデル『ロウフィールド館の惨劇』★★★★(20100816)
Ruth Rendell“A Judgement in Stone,1977”

角川文庫1984
 ユーニス・パーチマンがカヴァデイル家の一家四人を惨殺したのは、たしかに彼女が文字が読めなかった・・・・・・・・・からである。だがそれだけではない事情もあった──。
 ユーニスは有能このうえない召使だった。家事万端完璧にこなし、広壮なロウフィールド館をチリひとつなく磨きあげた。ただ、何事にも無感動なのが異常といえば異常だったが……。
 その沈黙の裏に隠されたものを、誰も知らなかった。ユーニスは死ぬほどおびえていたのだ、自分の秘密が暴露されることを。一家の善意・・が、ついにその秘密をあばいたとき、すべての歯車が惨劇に向けて回転をはじめた……。
 サスペンス小説の名手、ルース・レンデルの会心作。
 この作品は、主として犯人側の視点で物語が進められる「倒叙」形式の作品である。文盲であることを隠してとある屋敷に家政婦として雇われた中年女性が、次第次第に追いつめられていく様が乾いた調子で淡々と綴られていく。物語の進行は一見非常にシンプルであるが、実は結構手が込んでいるとも言える。「文字に見捨てられた」ユーニスの共犯者はキリスト教的狂信者であって、それは言いかえれば文字の向こうに幻想をのみ見ている人物である。いわば「文字に取り憑かれた人」なのだ。そして、この二人が犯人であることを告発するのは「声」であり、その「記録」である。言語の様態が巧みに取り込まれた構築美をなす佳作。
John Ringo
ジョン・リンゴー『大戦前夜 ポスリーン・ウォー@(上)/(下)』★★★★★(20120225)
John Ringo"A Hymn before Battle,2000"

月岡小穂訳:ハヤカワ文庫2010
21世紀初頭。突如出現した異星の航宙船は地球に驚くべき知らせをもたらした。残虐非道な異星種族ポスリーン人の超巨大軍団が、銀河のこの星域に侵攻し、5年後には地球に来襲するというのだ! 平和種族で構成された〈連邦〉の防衛軍は、この強大な敵に対しなすすべがない。彼らは、地球に技術や情報を提供するかわりに、加盟惑星の援護を要請してきたのだ。果たして、怖るべき星間大戦の渦中に巻きこまれた人類の運命は!?(上巻)
強大な敵を迎え撃つために、地球は〈連邦〉から携帯用人工知能〈AID〉や個人用防御フィールドなどの提供を受け、また超強化戦闘服コンバット・スーツを開発した。そしてついに、アメリカ軍、フランス軍、ドイツ軍を中心とする部隊で編成された軍団が、インダウイ人の居住する惑星ディエス4に派遣された。かくて、超高層ビルが群立する異星の都市を舞台に、人類対ポスリーン人の激烈なる戦闘の火蓋が切って落とされたが!?(下巻)
 著者紹介にある言葉に従うならば「ミリタリィSF」の傑作ということになるだろう。思い浮かべねばならないのは勿論ハインライン『宇宙の戦士』である。しかし『宇宙の戦士』では、既に始まっている異星人「との」戦争に主人公が参加するのだが、本書においてはこれから人類が異星人「間」の戦いに「巻き込まれる」のである。加えて人類と手を組む異星人にも何らかの秘密があるようで、一筋縄ではいかないことが伏線たるエピソードにおいて示されている。短い章割りによるスピード感溢れる展開で飽きさせないが、分量に比べて登場人物が多すぎてエピソード一つ一つの内容が説明不足気味なのが難点か。ただし物語の性質上、主に戦死という理由により、人物たちは徐々に整理され絞られていく感はある。人物も勿論魅力的だが、それに劣らず魅力的なのはテクノロジーであり、中でも特に注目すべきはやはり『宇宙の戦士』同様、いわゆるパワード・スーツである。ならば『宇宙の戦士』におけるスタジオぬえのイラストのような力の入った挿し絵を入れて欲しかった。下巻の戦闘シーンには、原文の問題か訳文の問題化が不明だが、意味の取りにくいところ、イメージのしづらい箇所が散見される。そうした箇所も挿絵を置くことでずっと読み易くなったはずである。表紙は現代SFらしく洗練されたものではあるが、しかし残念ながら『宇宙の戦士』のパワード・スーツには遠く及ばない。いずれにせよ、続巻を期待させる面白さではある。予断ながら、パット・ベネター「インビンシブル」、レッド・ツェッペリン「移民の歌」という曲名の登場にはニヤリとせずにはいられなかった。
ジョン・リンゴー『地球戦線 ポスリーン・ウォーA(1)/(2)/(3)/(4)』★★★(20120311)
John Ringo"Gust Front,2001"

ハヤカワ文庫2010
惑星ディエス4での死闘から生還したオニール大尉は、第555起動歩兵連隊第1大隊B中隊に中隊長として着任。これまでの敵との交戦体験をふまえ。隊員たちを徹底的に鍛えて、トップクラスの攻撃部隊に育てあげていた。一方、惑星バーウォン5から帰還したモソビッチ上級曹長ら特殊部隊員は、ポスリーン襲来後の自衛方法を市民たちに教えていた。着々と準備を進める地球。だが敵は予想より遥かに早く、すぐそこまで……!?(1巻)
予想より遥かに早く、ポスリーンの前哨部隊が襲来した! 超巨大戦闘艦の集団は、地球防衛のため必死に攻撃をくり返す戦闘艇の攻撃など歯牙にもかけず、世界各地へと次々に着陸してゆく。そしてアメリカには、首都ワシントンにほど近いバージニア州フレデリックスバーグを包囲するように、分離した戦闘艦の一群が着地、数百万人のポスリーンが侵攻を開始した! かくて、地上部隊対ポスリーン軍団の想像を絶する死闘が!(2巻)
飛来した巨大戦闘艦から現われたポスリーン軍は、必死に防戦するフレデリックスバーグを完膚無きまでに殲滅し、ついで首都ワシントンをめざし北上する軍団と、リッチモンドに向かって南下する軍団とに分離した。なんとしても首都を守るべく防衛軍は奮戦するが、敵の圧倒的な戦力によって次々に撃破されていく。一方リッチモンドでは、キートン将軍ひきいる第12軍団が、恐るべき死の罠を築いて、悪鬼どもを待ち受けていた!(3巻)
敵の習性を利用した戦略が功を奏し、キートン将軍ひきいる第12師団は、南下するポスリーン軍を打ち破ってリッチモンド防衛に成功した! 一方、北上するポスリーンの大軍は、首都ワシントンの目前にまで迫っていた。オニール大尉ひきいる第555起動歩兵連隊第1大隊――コンバット・スーツ部隊は、壊滅状態にあった防衛軍を再集結させ、首都を悪鬼の種族から守るため、驚くべき作戦を立案し、敢然と敵に立ち向かったが……!?(4巻)
 第1巻は良い。「嵐の前の静けさ」的な内容をじっくり描いていて、2巻以降に期待が高まる。ところが実際に闘いが始まって以降が問題である。視点はあちこちに移動させられ、登場人物は整理されるどころか次々と増えていき、主人公は4巻になるまで殆ど姿を現さず、やたら地名は登場するものの、当然ほとんどの読者には単なる呪文程度の意味しか持たず、地図は付されているもののこれが見事なほど役立たずときている。原文のせいか、それとも訳文のせいか、意味が通らない文章や語句が至る所で待ち伏せている。たとえば「古代ギリシア語で書かれたメッセージが六とおりの方法で暗号化され、記号表現が使われている。だが、内容は明快だ(4巻p98)」という文章自体が全く明快ではない。「記号表現が使われている」とは一体どういう意味であるか。もしも原文が分かりにくければ、読み易いように解釈し、多少なりとも明快になるようするべきである。論文の翻訳ではないのだから、岩波文庫の訳者がよくやるような複雑骨折したような文体で無理やり日本語化する必要はない。ところが本書の翻訳者はそのあたりに全く無頓着で、上に挙げたような意味不明の文章を平気で呈示するのである。本書の問題点がすべて翻訳者の責ではない。作者の問題も多々ある。しかし翻訳者が違っていたならば、その問題の何%かは生じなかったはずである。

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