【評価段階】
★★★★★──傑作。
★★★★───秀作。
★★★────凡作。
★★─────駄作。
★──────困作。

【M】
Michael Moorcock
マイクル・ムアコック『この人を見よ』★★★★★(20120625)
Michael Moorcock“Behold the Man,1968”

峯岸久訳・ハヤカワ文庫1981
 現代社会が生んだ、病める神秘主義者カール・グロガウアーは、キリストの生涯に異常ともいえる執着をおぼえていた。彼は、市井の科学者の手になる未完成のタイム・マシンを入手するや、キリストの最期を見届けるべく、過去へと旅立った。目指すは西暦29年、場所はエルサレム。だが、彼が見たのは、意外なキリストの姿だった! はたして、歴史は虚言なのか? それとも……? 過越しの祭のさなか、やがてゴルゴダの丘に十字架の立てられる運命の時が刻一刻ときざまれてゆく……イギリスSF界の奇才ムアコックが描く、ヒューゴー賞受賞に輝く問題中編の意欲的長編化作品!
 魔剣ストームブリンガーを巡るファンタジー“エルリック・サーガ”の作者として知られるマイケル・ムアコックのSF作品。とはいえ、タイムマシンの原理だとかタイム・パラドックスの問題だとかの、いわゆる“科学性”を主題とするのではなく、神に取り憑かれた男の、「殉教への憧れ」がテーマとなっている。キリストに会いたくて紀元一世紀のパレスチナに来たものの、キリストは実は……という話の流れから、「必然的にそうならざるを得ない、最も面白い結末」へと物語が収束していく描写はさすがにうまい。「神は死んだ」と宣言したニーチェの同題のエッセイをタイトルにしながら、キリストの生涯を描くという「見せ方」も洗練されているし、タイトルと内容の関係に関して哲学的なテーマで語ることもできそうな作品。そしてまた、見方を変えればこれは非常に良質な伝奇小説でもある。
マイケル・ムアコック『エルリック・サーガ1 メルニボネの皇子』★★★★★(20151107)
Michael Moorcock“Elric of Melnibone,1972”

安田均訳・ハヤカワ文庫1984
かつては〈光の帝国〉と称えられ、全人類をその支配下に置いたメルニボネ帝国も、今や見るかげもなく衰えはてていた。首都イムルイルで退廃的な乱痴気騒ぎに興じる人々の群れ。この衰運の帝国を統べるルビーの玉座の持主こそ、乳白色の髪に深紅の瞳の皇子エルリックであった。折りしも、南方諸国の一大艦隊が沖合に集結中の報を受け、かれは総攻撃の檄を飛ばした。〈黄金の御座艦隊〉で、簡単に蛮人たちは蹴ちらして見せる! だがそこには思いもかけぬ卑劣な罠が仕掛けられていた……魔剣ストームブリンガーを携えた皇子エルリックの冒険が今ここに始まった!
 ヒロイックファンタジーと言えば「指輪物語」や「火星シリーズ」、そして「レンズマン」シリーズなどが代表的なものだが、その中にあって異彩を放つのがこの「エルリック・サーガ」である。白子の皇子を主人公に置く一方で、自らの意志を持って戦う魔剣ストームブリンガー(と、その対になる魔剣モーンブレイド)を配し、ダークな雰囲気を全編に漂わせる。全八巻の「エルリック・サーガ」において、プロローグ的な位置づけを持つ第一巻は、エルリックが従兄弟イイルクーンを打ち負かして、さらわれた許嫁サイモリルを奪還し、その後新王国へ旅立つまでが描かれる。



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