【評価段階】
★★★★★──傑作。
★★★★───秀作。
★★★────凡作。
★★─────駄作。
★──────困作。

【G】
Terry Goodkind
テリー・グッドカインド『〈真実の剣〉第一部 魔道士の掟(1)-(5)』★★★★★(20120624)
Terry Goodkind“Wizard's First Rule,1994”

佐田千織訳・ハヤカワ文庫2001
 父を惨殺された森の案内人リチャードは、悲しみに打ちひしがれていた。犯人の手がかりを求めて森をさまよううちに、魔法の国との〈境〉近くで偶然ひとりの女性の命を救う。彼女の名はカーラン。遠い昔に姿を消した偉大な魔道士を見つけるため、魔法の国からきたという。彼女と共に魔道士を探す途上、リチャードは父を殺した邪悪な魔王の恐るべき陰謀と、自らが持つ大いなる力を知った! 新感覚ファンタジイ巨篇、堂々開幕(1巻「探求者の誓い」)
 偉大な老魔道士とは、旧友ゼッドだった! 彼から〈真実の剣〉をさずけられ、〈探求者〉に任命されたリチャードは、人々を救うため、そして父の復讐のため、悪の魔王ラールを破滅させることを誓う。だがカーラン、ゼッド、チェイスをともない、魔法の地ミッドランズとの〈境〉へと向かったリチャードに、地下世界の魔物が襲いかかる。彼らの恐るべき攻撃をかわして〈境〉を越え、魔法の地にたどりつくことはできるのか?(2巻「魔法の地へ」)
 次々と襲う試練を乗り越え、ついに〈境〉を抜けて魔法の地ミッドランズへ踏み込んだリチャードとカーラン。手がかりを求めて〈泥の民〉を訪ねたふたりは、排他的な彼らを命がけで説得し、霊の集会を開かせることに成功する。だがそこで告げられた先祖の霊の言葉に、ふたりは愕然とした。手がかりは、魔道士さえ恐れる悪名高い魔女が持っているというのだ。不本意ながらも任務遂行のため魔女のもとへ向かった彼らは……!?(3巻「裏切りの予言」)
 自らが恐ろしい魔力を持つ聴罪師長であることを明かしたカーランと、そんな彼女を愛してしまった探求者リチャード。残酷な運命に絶望しながらも旅を再開したその直後、ふたりは森の中で不思議な少女と出会う。みすぼらしい服にぎざぎざの髪、人形とパンだけを大切そうに抱えた少女──彼女がダークン・ラールを倒すための重要な手がかりを握っているとも知らぬまま、ふたりは何とかこの無防備な少女を守ろうとするが……(4巻「結ばれぬ宿命」)
 悪の魔王ダークン・ラールの野望を打ち砕くため、長く苦しい旅を続けてきた探求者リチャード。ついに求めていた〈箱〉を手に入れるが、喜びもつかの間、敵の罠にはまり、捕らえられてしまう。一方、そのことを知ったカーラン、ゼッド、チェイスの3人は、救出のためラールのもとへと向かう。敵の攻撃をかいくぐりながら、ようやくラールの宮殿にたどり着いた彼らが目にしたものとは!? 第一部、感動と衝撃のフィナーレ!(5巻「白く輝く剣」)
 「リチャード」という、およそファンタジーに相応しくない主人公の名前に一瞬引くが、それでも数ページ読み始めれば惹き込まれる傑作。展開がめまぐるしく飽きさせない構成に加えて、魔法あり、魔女あり、ドラゴンありという内容で、ファンタジーの王道を行く物語である。が、それも4巻後半には雲行きが妖しくなり、5巻にかけてはむしろ『家畜人ヤプー』で描かれたような奈落の世界へと落ち込んでしまう。その意味でこれは十分以上に「大人の」ファンタジーだ。また、何よりも、主人公の能力を「探求者」という、答えを求める能力に設定した点が見事。であるだけになおさら、主人公の名前が浮いてしまうとも言える。
テリー・グッドカインド『〈真実の剣〉第二部 魔石の伝説(1)-(7)』★★★★★(20120729)
Terry Goodkind“Stone of Tears,1995”

佐田千織訳・ハヤカワ文庫2002
 数々の苦難を乗り越え、ついに悪の魔王ダークン・ラールを倒した探求者リチャード。だが同時にラールを滅ぼした魔法そのものが、死の世界を封じる〈ベール〉を裂いてしまっていた。このままでは冥界の王〈番人〉が抜け出し、生あるものを殺しつくすだろう。魔石を用いて裂け目を閉じ、命なき永遠の闇からこの世界を救うことができるのはただひとり、探求者しかいなかった……話題沸騰の新感覚ファンタジイ、第2部開幕!(第1巻「冥界からの急襲」)
 自らの才を思うように操れず、苦しむリチャード。そんな彼の前に現れた〈光の信徒〉と名乗る女たちは、自分たちのもとで才の操り方を学ばなければ、自らの強大な魔法に命を奪われる、と警告する。だがリチャードには、〈ベール〉を閉じるという急務もあった。同時に二つの問題を解決すべく、彼は〈泥の民〉の先祖の霊に助言を求める。だが、その儀式はおそるべき災いを招き、リチャードをさらなる危機に陥れた!(第2巻「光の信徒」)
 才のあやつり方を身につけるため、遙かな地にある〈光の信徒〉たちの宮殿へ向け、シスター・ヴァーナとともに出発したリチャード。だが、カーランに裏切られたという苦しみを抱えるリチャードと、かたくなで批判的なシスターはことごとく対立し、ますます溝を深めていく。一方、老魔道士ゼッドも、〈ベール〉を閉じる方法を求めて、〈骨の女〉エイディを訪ねた。そのとき突然、地下世界の恐ろしい獣が彼らに襲いかかった!(第3巻「魔道士の務め」)
 リチャードとシスター・ヴァーナが〈予見者の宮殿〉に向かっていたころ、カーランはチャンダレンらを伴い、アイディンドリルへの旅を続けていた。途中、ゲイリアの王都エイビニシアを通った彼らは、信じがたい光景を目にする。町には人の気配すらなく、いたるところに虐殺された死体が積み重なっている。いったい誰が、なぜこんな酷いことを? カーランは聴罪師長として、自らの民に起きたことの真相究明に乗り出した!(第4巻「エイビニシアの虐殺」)

 エイビニシアの住人を殺戮し、町を壊滅させた犯人を追っていたカーランは、ついに真相を突き止めた。地上から魔法を持つ生き物を抹殺し、世界を征服しようとたくらむ強大な軍勢〈至高秩序団〉こそが、すべての残虐行為を行なっていたのだ。狂信的で危険きわまりない彼らからミッドランズを救うため、カーランは戦う決意をした。危険も省みず、総司令官として自ら軍隊を率いて戦場に赴くカーラン。はたしてその作戦とは!?(第5巻「総司令官カーラン」)
 シスター・ヴァーナに導かれ〈予見者の宮殿〉にたどり着いたリチャード。だが、不気味な森の獣ムリスウィズが徘徊するそこは、不穏な空気に満ちた場所だった。互いをおとしめようとする若い魔道士たち、陰謀をめぐらすシスターたち。リチャードは否応なしにその渦中に巻きこまれていく。そんな折、自分について書かれた予言を見つけ出し、その謎を解こうと調べはじめる。カーランの身に危険が迫っているとも知らずに……(第6巻「予見師の宮殿」)
 〈予見者の宮殿〉に閉じこめられたまま、見えない敵を相手に苦しい戦いを強いられるリチャード。聴罪師長としての力も尊厳も奪われ、処刑を待つばかりの身のカーラン。地下世界の魔法に冒され、すべての記憶を失ってしまったゼッド。絶体絶命の彼らがふたたびめぐりあい、力を合わせて敵を倒す日は来るのか? 恐るべき〈番人〉がこの世に解き放たれるときは、刻々と近づいていた……波瀾万丈の第2部、ここに堂々完結!(第7巻「霊たちへの祈り」)
 前作以上のスケールを持って展開する第二部。それに加えて「ダークな」描写も過激さの度合いを増してきている。特に第5巻後半の戦闘シーン、第7巻冒頭の牢獄のシーンは、ファンタジーとしてはかなり珍しい過激な描写が冴える。しかも単に過激さを増しただけではなく、第一部のさまざまな要素を伏線にして、より大きな物語を編み上げる様は圧巻であるだろう。ただし、第1部もそうだが、「魔法」「地下世界」「番人」などといった、物語の重要な骨子をなす要素に割かれる説明の総量に乏しく、そのために〈ベール〉が避けるとどうなるのか、〈番人〉が解き放たれると具体的には一体何が起こるのか、といった点でイメージが掴みづらく、それだけに主人公の最終目標が曖昧なのが難点か。
テリー・グッドカインド『〈真実の剣〉第三部 魔都の聖戦(1)-(4)』★★★★★(20120731)
Terry Goodkind“Blood of the Fold,1966”

佐田千織訳・ハヤカワ文庫2003
 死の世界から〈番人〉の侵入を阻止した“戦いの魔道士”リチャード。だが息つく間もなく、〈旧世界〉からあやしい影が混沌の町アイディンドリルに忍び寄っていた。一方で、精鋭部隊〈同士の血〉を率いるトバイアス・ブローガン大将軍が、恐ろしい野望を胸に進軍してきた。迫りくる脅威から、聴罪師長カーランを欠いたミッドランズを救うため、リチャードは大胆不敵な賭けに出た! 白熱するファンタジィ巨篇、第3部開幕(第1巻「大将軍の野望」)
 〈同士の血〉の大将軍、トバイアス・ブローガンが動きだした。奇怪な魔法を操る呪術師の姉ルネッタをともなって、リチャードの前から忽然と姿を消したのだ。一方そのころ〈予見師の宮殿〉では、院長に任命されたヴァーナが〈闇の信徒〉から宮殿を守ろうと苦心していた。だが、亡き前任者が残した奇妙なメッセージが、彼女を震撼させる。そしてついに、人々の夢に入りこみ心を狂わせる恐ろしい敵、夢魔がその姿を現す!(第2巻「夢魔の暗躍」)
 リチャードとの再開を信じて旅を続けるカーラン。今やゲイリアの女王となった彼女は、ゼッドやエイディらとともに王都エイビニシアをめざしていた。だがそこへ、リチャードから思いがけない知らせが届く。不安をおぼえて警告を送った直後、彼女自身が不気味な集団に襲われ、捕らえられてしまう。いったいどこへ連れていかれるのか? 一方、警告を受けそこねたリチャードは、何も知らずに危険のなかへ飛びこんでいく……(第3巻「密使ムリスウィズ」)
 カーランの到着を待ちわびるリチャードのもとに、恐ろしい知らせがもたらされた。彼女が戦いに巻きこまれ、〈予見師の宮殿〉へ連れ去られたらしいというのだ。激情に駆られたリチャードは、本能にまかせて太古の魔法を呼び起こす。カーランのもとへいかなければ、彼女を救い出さなければという一心で。だが、魔法の力を借りてたどりついたリチャードを待ち受けていたのは、あの忌まわしい敵だった! 第3部ついに完結。(第4巻「永遠の絆」)
 ますます面白くなっていく第三部。二部までの内容を伏線に使用しての新設定も登場して、物語はさらに厚みを増す。その一方で、支線たるエピソードは削ぎ落とされ、スピーディな展開が心がけられているのも評価できる。特に4巻の最後の戦闘シーンは、『指輪物語』の最後の戦いにも匹敵する迫力と感動がある名場面。ただ一つ、この物語の難点を指摘しておくならば、最後の敵との対決が常に一度限りであるにも関わらず、主人公側がその敵のことを意外によく知っている、と思える矛盾点にある。「いや、やつはそんな馬鹿ではないはずだから、そんなやり方をしたところで無駄だろう。」……なぜそれがわかるのか? なぜそこまで言えるのか? そんな疑問には答えてもらえない。また、物語の徐々に代わりゆく雰囲気に、挿絵のタッチが置いていかれてしまっているのも問題ではある。

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