【評価段階】
★★★★★──傑作。
★★★★───秀作。
★★★────凡作。
★★─────駄作。
★──────困作。

【E】
Greg Egan
グレッグ・イーガン『宇宙消失』★★★★★(20111225)
Greg Egan"Quarantine,1992"

山岸真訳・創元SF文庫1999
2034年、地球の夜空から星が消えた。冥王星軌道の倍の大きさをもつ、完璧な暗黒の球体が、一瞬にして太陽系を包みこんだのだ。世界各地をパニックが襲った。球体は〈バブル〉と呼ばれ、その正体について様々な憶測が乱れ飛んだが、ひとつとして確実なものはない。やがて人々は日常生活をとりもどし、宇宙を失ったまま33年が過ぎた――。ある日、元警察官のニックは、匿名の依頼人からの仕事で、警戒厳重な病院から誘拐された若い女性の捜索に乗りだした。だがそれが、人類を震撼させる量子論的真実に結びつこうとは……! 新鋭作家が描きだす、ナノテクと量子論がもたらす戦慄の未来。
 同様の発想に小松左京『首都消失』や野尻抱介『太陽の簒奪者』がある(原題の“Quarantine”が『宇宙消失』と邦訳されているあたりに小松作品へのオマージュが読み取れる)が、本書が最もハードコアな物語だろう。量子論を踏まえて、というとシュレディンガーの例の猫を思い浮かべずにはいられないが、それを〈バブル〉の存在理由へと無理なく接続するとともに、斬新なアイデアの「生命」まで描き出す。「拡散」と「収縮」場面の描写が今一つ分かり難いのが難点だが、量子論という極微世界の知見に〈バブル〉という極大スケールの出来事とをフィリップ・K・ディック的な主人公によって接続する妙技が冴える。21世紀の新たなSFを予感させる傑作。

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