【評価段階】
★★★★★──傑作。
★★★★───秀作。
★★★────凡作。
★★─────駄作。
★──────困作。

【わ】
若竹七海
若竹七海『水上音楽堂の冒険』★★★(20150531)

東京創元社1992
 冬彦が一八歳になったばかりの去年の九月に、その事故は起こった。
 その日は、例によって兄の辰彦が二日酔いで会社を休んだ。ただ、少し風邪をひきかけているらしく、しきりと喉の痛みを訴えていたのが気になった。塾で模擬テストを受けたあと、、友人の坂上静馬の家で勉強をする約束だったのを断わり、冬彦は帰宅を急いでいた。九月の終わりのやや暗くなった午後六時。冬彦は街灯の明かりで、世界史の練習問題を読みながら歩いていた。そのとき、四つ辻から自転車が飛び出してきて、まともに冬彦にぶつかった。不意をつかれた冬彦はブロック塀に頭をぶつけて転倒した。(p9)
 物語の中心にあるトリック自体には驚きが少ないが、記憶の混乱の原因についての説明は素晴らしい。幼馴染み三人の関係性の変化もまた物悲しい終わり方に余韻が溢れている。とは言うものの、被害者とその周辺の人物の印象が薄いように思える。そのために、殺人であるにも関わらず、事件そのものに重さを感じられないのである。「キ○ガイ」という言葉が伏せ字もなく頻出するのがその原因だろうと推測されるのだが、未だ文庫化されていないいわく付きの作品。
若竹七海『閉ざされた夏』★★★(20130816)

講談社1993
 昭和初期に彗星のごとく現われ、文壇に旋風を巻きおこした文学者・高岩青十。彼の業績を展示する「高岩青十記念館」では、秋の特別展をひかえ学芸員たちは、連日準備に大忙し。
 そのさなかに、奇妙な放火未遂事件が連続する。あたかも、惨劇を予告するがごとく……。
 閉ざされた“空間”の中での殺人と、若い世代の心情をイキの良い文体で描いた青春推理の快作!
 『ぼくのミステリな日常』でデビューした若竹七海の作品であるが、『ぼくのミステリな日常』に比べると出来はあまり良くない。放火未遂事件と殺人事件との関連性が弱いし、冒頭の加害者像が薄いために、結末部分でその人物について語られる人物像とが微妙に食い違うのも難である。舞台となる記念館における「作家像」もどうにも影が薄い。欲張りすぎて消化不良というところだろう。
若竹七海『遺品』★★★★★(20150925)

角川ホラー文庫1999
金沢市郊外、銀鱗荘ぎんりんそうホテルに眠っていた今は亡き女優・曾根繭子まゆこにまつわるコレクション。その公開作業が進められる中、明らかになったのは、コレクションを収集した大林一郎の繭子への異様なまでの執着。繭子の使った割り箸、繭子の下着、繭子の……狂気的な品々に誘われ、やがてホテルには、繭子が書き残した戯曲を実演するかのような奇怪な出来事が次々と起こる。それは確実に終幕に向かって――。
書き下ろし本格長編ホラー。
 ホラー作品であり、したがって超自然的な現象が次々と起こり、物語は徐々にスピードを増してカタストロフィへと突き進んで行く。しかも終幕において大きなどんでん返しさえ――しかもそれまでにしつこいほどの伏線が張られているのに気付かない――用意されている、という本格推理小説並みの内容を持つ一級品のホラーである。エピローグをなぜ「そのような」内容にしたのか、というところが少々疑問である以外は実に素晴らしい作品。
若竹七海『スクランブル』★★★★★(20150524)

集英社文庫2000
一九八〇年、あたしたちは高校生だった。そして、一人の少女があたしたちの通う学校で殺された――。それから十五年後、仲間の結婚式で再会したあたしたちは迷宮入りした事件の謎に迫るのだが……。過ぎ去った八十年代を背景に、名門私立女子校で起きた殺人事件をめぐって、鮮やかに描かれる青春群像。十七歳だったことのあるすべての人に贈る、ほろにがくて切ない青春ミステリの傑作。
 『ぼくのミステリな日常』同様に、連作短編集という体裁を取りながら、それらの短編を貫く大きな謎が最後に明かされる、という形式を持つ作品。最後の種明かしは多少弱いかなとは思うのだが、何より文芸部に所属する個々のキャラクターが醸し出す雰囲気が良い。その掛け合いには高橋留美子の描く世界を思い出すほどである。そのうえ『ドグラ・マグラ』、『家畜人ヤプー』、『コインロッカー・ベイビーズ』、『一万一千本の鞭』などの作品名が繰り出されるとあっては、「ちょっと変わった」本好きにはたまらない。
若竹七海海神ネプチューンの晩餐』★★★★(20150813)

講談社文庫2000
氷川丸一等船室から、タイタニック号沈没の際持ち出された謎の原稿が盗まれた。原稿に隠された暗号に気付いた高一カの周りで、金髪美人の幽霊出現、死体消失、殺人未遂騒動など、次々と起こる怪事件。香港〜横浜〜バンクーバーまでの航海中の船上を舞台にくりひろげられる著者渾身の本格長篇ミステリー。
 舞台は1932年、アメリカへ向かう氷川丸船上である。設定は面白いし、惹き込まれる物語ではあるのだが、人物像に濃い薄いの差があるような気がする。そのため、終盤になって出てくる名前に、それが誰だったのかを思い出せないことが――もちろんこれには読む側の個人差はあるだろう――しばしばあった。また、これも終盤、とある意外な人物が乗っていたことが明らかになるのだが、その隠れ方にもある種のアンフェアさを感じずにはいられない。幾つもの蘊蓄があり、雰囲気も良いのに荒さが目立つ作品。



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